社員の引き抜きは違法?一億円の賠償請求、認められたのは870万円という事例も
社員が独立やライバル企業へ転職をするということは、経営者を数年やっていればよくある話かもしれません。
優秀な社員が退職してしまっただけでも会社にとっては大きな損失ですが、他の社員も引き抜かれたらどうでしょう。
今回は、元従業員による引き抜き行為は違法になるのか?賠償請求はできるのか?について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
【 関連記事 】
目次
引き抜きとヘッドハンティングの違い
「引き抜き」と似た意味で使われることの多い「ヘッドハンティング」という言葉ですが、意味は違うのかについて解説します。
大きく分けて二点の違いがあると言えます。
①役職の有無
ヘッドハンティングとは別名「エグゼクティブサーチ」と呼ばれることもあります。役員などの経営幹部にあたる役職者をスカウトすることを言います。それに引き換え、「引き抜き」は役職の有無に関わらず、同業他社で活躍している人材に声をかけ転職を促します。どちらも、即戦力となる優秀な人材であることは前提ですが、ヘッドハンティングの方が、現年収より高い年収を提示するケースが多いです。
②「仲介会社」を通すかどうか
ヘッドハンティングは一般的に、仲介会社やエージェントを通して、自社が求める人材を探し出します。
一方、引き抜きは、知り合いが直接声を掛けて自社に引っ張ることを指す場合が多いです。
引き抜き行為は違法なのか?
では、本題に移りましょう。
引き抜きで訴えることはできるのか?また、引き抜きで訴えられた場合、損害賠償を支払う義務はあるのか?について見ていきましょう。
在籍中に勧誘していた場合
違法のなるかどうか?で決めてとなるのが、引き抜きをしたタイミングです。
まだ会社に在籍中の状態で、引き抜きを行った場合は違法となる可能性が出てきます。
社員は会社と雇用契約を交わしているため、会社に不利益を与える行為は違法となり、訴えることができます。
しかし、「一緒に転職しないか?」や「近いうちに独立する予定で、一緒に働こう」など転職を促す程度ならば「職業選択の自由」があるため違法とは言えません。
違法となる可能性が高いケースとして考えられるのが、対象の社員が会社で占める地位が高く、引き抜いた後に会社の与える損害が大きいと予想されるパターンなどがあります。
退職後に勧誘していた場合
退職後に引き抜きを行なった場合は、雇用契約が終了しているため違法となる場合は少ないと言えます。
しかし、退職時に誓約書にサインをしている場合や、大量の引き抜きを行うなど悪質であるとみなされた場合には、営業権侵害となり損害賠償請求が認められます。
損害賠償請求が認められた事例
前述の通り、「引き抜きされた」=「損害賠償請求が可能」という訳ではありません。
不法行為とみなされた場合にのみ、損害賠償請求が認められます。
独立行政法人が公表している事例を参考に見ていきましょう。
一億円の賠償請求、認められたのは870万円
今回の事例は「ラクソン事件」と呼ばれる裁判例です。
会社の売上80%を占める実績を出し、社運を賭けた極めて重要な企画を任されていた取締役兼営業本部長が移籍先と計画を練り、部下20人以上を引き抜いた事案です。
損害賠償請求が認められたポイントして以下が挙げられます。
①取締役兼営業本部長という極めて高い地位
②大量の部下を引き連れた
③綿密な計画の上実行された
などの理由から、社会的に認められない引き抜き行為であったと認められました。
請求額が1億円に対して、認められた金額は870万円に留まりました。
実際に被った損害が引き抜き行為によって生じたものであるか、因果関係を証明することは容易ではないのかもしれません。
参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「転職の勧誘・引抜」
まとめ
今回は、引き抜き行為の違法性について解説しました。退職後においては雇用契約が解除されている状態のため、原則違法になりうる可能性は低いとされます。
しかし、退職前、退職後にかかわらず会社における地位や計画性などから悪質であると判断された場合は、損害賠償請求ができる可能性があります。
引き抜きが起こる前に、就業規則を社員に周知し、懲戒解雇や退職金の不支給または返還要求義務が生じるなどの処分があることを事前に認識させ、引き抜き行為を防ぐ努力が必要でしょう。